私も自分で焙煎を始めるまでは、知らないことだらけの世界の連続でした。
焙煎は、職人気質な世界でその方法は人それぞれです。
しかし、私が知る限り焙煎人の方はとても気さくな方が多く、実際多くのことを沢山のロースターの方から教えて頂きました。
今回は皆様に、この場をお借りして少しでも焙煎の世界と魅力に触れて頂ければ嬉しいと思います。
目次
焙煎機は熱の与え方によって数種類ある
SCAJコーヒーマイスターテキストでは焙煎機の種類について以下の様に定義されています。
(2010年12月改訂版 P107 一部改編)
直火式
基本的に焙煎機内のドラムに小さなパンチ穴が空いており、そこから直接入るバーナーの火で焙煎をしていく構造。
半熱風式
焙煎機のドラムには穴が空いておらず、ドラムへ向かう火と、バーナー部で発する熱をファンにより熱風として送り込み焙煎する構造。
熱風式
バーナーがドラムに対して水平で、ドラムに直接火が当たらない構造。ドラムを通過する熱風で焙煎する構造。熱効率の高い熱風の割合が多く、半熱風式に比べ焙煎時間が短くなる傾向がある。
今回は半熱風式のフジローヤルディスカバリーを使用して、焙煎の基本的な流れと用語について解説していきます。
ハンドピック
商品として卸から購入する生豆でも完璧に選別されている訳ではなく、少なからず欠点豆や、まれにコーヒー豆以外の小石や異物等の混入の恐れがあるのでそれらをハンドピックの作業で除去していきます。
欠点豆にも様々な種類がありますが、ここでは代表的なものをご紹介します。
SCAJコーヒーマイスターテキスト
(2010年12月改訂版 P 39 参照 一部改編)
醗酵豆:収穫後の生産処理の遅れ、及び設備の清掃不備等が原因で変質・劣化した豆。
未熟豆:コーヒーチェリーが未熟の状態で収穫された豆。貧弱でツヤ・ボリュームに欠け、入り上がりが悪くなる。
貝殻豆:生産処理や輸送の過程で砕けた豆を「割れ豆」、生育上の問題で貝殻場になったものを「貝殻豆」という。焙煎時に煎りムラを起こしやすい。
虫食い豆:害虫の食害にあった豆。
このハンドピックは焙煎終了後にも行います。特に色が他の豆に比べ薄いもの(未成熟豆)や、貝殻豆等を中心に除去していきます。
ハンドピックは地味で大変だが大切
上記の様な豆が焙煎時に混入しそのままご家庭に届けられると、その豆が混入したコーヒーはやはり美味しくなくなります。丁寧なハンドピックが重要ですが焙煎量が増えてくると、なかなか骨の折れる作業です。トップスペシャルティ等の高ランクコーヒーでは欠点豆の混入率は結構低いですが、プレミアムランク以下のコーヒーではやはり混入率が高いです。
生豆を選ぶときは、品質と値段・また焙煎の上達具合等のバランスを考えた上で選ぶと良いでしょう。
私自身は品質の高さに重きを置き、コーヒー商社のワタル(株)の生豆を中心に利用させて頂いております。
https://www.specialty-coffee.jp
焙煎の流れ
予熱
まずは釜に火を入れ温めておきます。
焙煎の重要なイメージとして、ガスバーナーから発生する炎や熱風等の熱源以外に「蓄熱」を考慮することが非常に大事です。最近は電気式の焙煎機も登場しており一概には言えませんが、基本的に釜の素材は鉄等の金属製のものが多いです。
特に焙煎の1回目(1バッチ目)はその蓄熱が十分でないので、予熱を入れることで準備をしておくことが重要です。
2バッチ目、3バッチ目と進むにつれて徐々に釜が温まり、焙煎機本来の性能が発揮されるといっても良いでしょう。この蓄熱を考慮して火力や、温度管理の微調整をしていくことが品質安定のために欠かせません。
生豆投入のタイミング
焙煎機に豆を投入するタイミングの温度はとても大事ですが、ご家庭で手網焙煎をされていたり、手回し焙煎機で焙煎されている方にとってはイメージが掴みづらいかもしれません。
なぜ大事かというと、投入タイミングとその時の釜の温度の関係により熱の入り方や、焙煎時間が大きく変わり味づくりに大きな影響を与えるからです。
デジタルの焙煎機にはほぼ必ず、内部の表面温度を表す温度計がついていおり、ひと目でリアルタイムの内部温度を把握できる様になっています。
例えば、焙煎機内の温度が120℃の時にバーナーをつけた状態で生豆を投入すると、生豆自体の温度が低いのでどんどんと釜の内部の温度が下がっていき、どこかの温度(例えば90℃付近)で下げ止まります。その下げ止まりの温度を「中点(ボトム)」と言います。
このボトム温度の管理が焙煎豆の味作りをしていく上で便利であり、重要です。
他の要素を全て固定した状態でボトム温度を変化させるだけでも、以下の様な効果があるからです。
あくまでも一例ですが、
①ボトム温度低
②低い温度からじっくり火が入り、焙煎時間が伸びる傾向
③酸味が抑えられた、香ばしい味わい
a.ボトム温度高
b.ある程度高い温度でボトムを迎え、焙煎時間が短い傾向
c.素材本来の酸味や、フレッシュ感の残った味わい
ただこれらは常に良い面・悪い面と隣り合わせでバランスが大事です。上記の一例をネガティブな表現で記すと、
①ボトム温度低
②低い温度からじっくり火が入り、焙煎時間が伸びる傾向
③風味の特徴が失われた挙句、嫌なスモーキーさが残ったフラットな味わい
a.ボトム温度高
b.ある程度高い温度でボトムを迎え、焙煎時間が短い傾向
c.コーヒー豆に十分な熱が入らず、生焼けで嫌なエグミや酸味の残った味わい
となります。
特に生焼けで芯残りのコーヒーは飲めたものではありません。
浅煎りコーヒーは常にこの危険性を意識しながら、生焼けではないギリギリを攻め、フレッシュな風味を実現させていくことが大事です。ロースターの腕の見せ所であり個人的に浅煎りコーヒーが技術的に最も難しいと感じています。
水抜き
上記で述べた「生焼けを防ぐ事」はコーヒー焙煎において最も重要な要素であると私は考えています。本当に生焼けのコーヒーは不味く到底飲めるものではありません。消臭剤か肥料行きとなります。
そこで生焼けを防ぐ上で「水抜き」という作業を確実に行うことが一番大事ですがこいつがなかなか厄介です。個人的にそう思う理由として、
①豆の表面だけをみても中心まで熱がしっかり入っているかよくわからない。(水抜き完了に至るまでの焙煎の仕方によって、見た目が同じでも内部の水分量が異なる可能性があるため)
②生焼けを恐れすぎた結果、過度な水抜き工程を行ってしまい平凡で特徴のないフラットなコーヒーになる。
③焙煎初期から水抜き工程完了までにおける、火力・風量選択が非常に難しく理論も人によって様々である。
ことです。
特に③については本当に様々で、いくらネット等で調べても確立した答えはありません。この部分については、今後の関連ブログで私の経験則に基づいてお話いたしますので、お待ちいただければと思います。
本焙煎(デベロップメント)
デベロップメントとは、コーヒーの水抜きが終了し、いよいよ本格的に熱量を与え一気にコーヒーの風味を発達させていく段階です。
水抜きをせずにいきなり高火力で焙煎をしてしまうと、生焼けのリスクが高まる事もあり、水抜きを終えた段階でデベロップメントに移るのが大まかな流れです。
(注:ここにおいても理論は様々であり、序盤から高火力の焙煎を貫き一定のファン層を獲得するに至るロースターもありますので、一例と考えていただければ幸いです)
ここで重要なことは、上記にもある通り風味を発達させそのコーヒーの持つ個性を存分に引き出すことです。
そのためにはある程度の高火力と風量が必要になります。
ここでビビって十分な熱量を与えずに進めてしまうと、フラットで個性を活かしきれていない平凡な味わいのコーヒーになります。
ハゼと焙煎終了の見極め
ハゼとは、焙煎の過程における重要な変化で、豆が音を立ててはじける現象です。
焙煎がシナモンローストの浅い段階で最初のハゼ(1ハゼ/First Crack)が始まり、ポツポツといった比較的低めの音が起こります。
1ハゼがある程度継続して終了し(ミディアムロースト)、温度がさらに上昇、豆が黒く延びてくると2ハゼが始まります。
2ハゼはピチピチという高めの音で、さらに多くの物質が内部で生成、揮発し、内部の構造が破壊されることによってこの音が起こるとされています。
SCAJコーヒーマイスターテキスト
(2010年12月改訂版 P109 参照 一部改編)
このハゼ・焙煎豆の色・見た目を総合的に判断して、自分の狙った焙煎度合いに仕上げていきます。
豆の種類や保存状況(豆の水分量等)によってハゼの起こる温度やタイミングは微妙に違いますが、同じ豆を複数回焙煎するときは、大体同じタイミングでハゼが起こります。
私自身のミディアムローストの焙煎方法の一例では、1ハゼ発生時の時間を記録。
そこから90秒後のタイミングで狙った焙煎度合いで終了できる様な火力に落とし、最後は豆の色と表面の艶を総合的に判断し終了します。
デジタル式の焙煎機を使用されている方にとっては、火力・時間推移等の把握は容易なので、まずは自分のある程度のベースとなる焙煎方法を確立しそこから、各変数を調整することで、自分の目指すべき味わいを探っていきます。
手動焙煎機の味造りのコツ
まず前提として、私自身手網焙煎・手回し焙煎機を使用したことがありません。あくまでもディスカバリー使いの目線として、手動焙煎機のヒントになりそうな事を記します。
焙煎過程の記録をとってみる
手動焙煎機においても、ある程度のデータを蓄積していくことは重要だと思います。
上記の各過程のそれぞれでどの様な火力で、どれくらいの時間が経過していたかは焙煎の再現性や味作りにおいては非常に参考になります。
まずは、ストップウォッチによる時間計測、各時間帯での火力(強火・中火・弱火)、ハゼの起こった時間等をデータ採りすれば、今まで意識することの少なかった焙煎過程の細かな変化に気付ける可能性が上がるでしょう。
五感をフル活用する
温度変化のデジタルデータがない手動焙煎機にとって、目で見る情報と、香りは特に重要です。
以下の写真は各焙煎工程における豆の状態です。
特に覚えておいて欲しいのは水抜きが終了し火力を上げていくタイミングです。
理由は、水抜きが終了する前に火力を上げてしまうと、豆内部に残った水分による化学反応によりエグミや渋みが出やすいからです。
判断するポイントとして、
①豆が縮み、全体として明るいオレンジ色である。
②青っぽい匂いがなく、香ばしいナッツの様な香りである。
という点です。
ただ、上記でも記した通り、水抜き工程が完了したかどうか見た目だけではよく分からない状態ですのであくまでも目安として参考にして頂ければと思います。
後は豆の色と艶をみて、好みの焙煎度合いで終了できる様にします。特に焙煎終了直前は注意深く観察していきます。
目安として豆表面のシワがなくなり、つるんとして艶が出てきた初期段階が中深煎り位で、酸味と甘みとコクのバランスが取れた焙煎度合いです。
まとめとディスカバリー焙煎機の価格
今回は焙煎経験者の方にとってはやや物足りない情報であると思いますが、次回以降はより深く切り込んでいこうと思います。
ディスカバリー未経験の方や、焙煎をされたことのない方にとっては、次回以降のよりマニアックな内容に関する前提知識を深める上で、この記事をご参考にしていただければ幸いです。
ちなみに私はこの焙煎機を販売元の(株)冨士珈機から2016年に購入し、当時の価格は約55万円でした。
もし興味がある方は自身の予算と相談の上、見積もりをとってみてはいかがでしょうか。
自宅で焙煎研究できる楽しみはコーヒー好きにとっては計り知れないものです。